JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 2

概要

JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道の地図 雪原の向こうに見えた隧道は、氷が彩るファンタジーの世界。
まさにそれは氷の洞窟だった。

2-1 氷の洞窟

JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 19 氷柱!!
しかも、規模が尋常じゃない。
ここから数本の柱が見えるが、各々一本で隧道断面の3分の1くらいを塞いでしまっている。
青く光るそれに惹かれるように、洞内へと足を進める。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 20 足元に鉄道らしさはなく、バラストというよりも土が多い。

入ってすぐのところになにやら看板が立てかけられており、「発破作業中に付 通行止」とあった。
新漢字が用いられていることから戦後の物であることは間違いないわけで、発破をかけねばならないほどの工事とあれば、旧線か現線のトンネル工事において使われたものの可能性が高い。
そのどちらに使われたのか(あるいはどちらでもないのか)は、はっきりしない。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 21 あの巨大な氷柱に目を奪われながらも、少しは回りも見ていかねばなるまい。
振り返ると、倒壊した鉄柵となだれ込む土砂が見えた。
坑口から先はもはや鉄路があったことを思い起こすような地形ではなく、一切の痕跡がなくなっている。
唯一、この隧道だけが、明治の鉄路を示しているのである。


・・・正直、周りを見ている余裕はなかった。
私の魂は、ただ私を迎える、氷の洞窟の内部に向かっていた。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 22
もう、言葉が見つからない・・・
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 23 「度肝を抜く」というか・・・言葉にならなかった。穿った見方ではなく、事実としての「開いた口がふさがらない」。
あまりにも美しく、感動的な光景に、もうなにかがどうにかなってしまいそうだった。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 24 一冬を通じて成長した巨大な氷の柱が、3つ。
あまりにも深い青色をしたそれらは、床から天井を貫いている。隧道の規模からして、高さ4メートルはあるだろう。
直径は2メートル近くありそうだ。
その表面にはわずかに水が流れ、テラテラと輝きを放っていた。

いったいどれほどの落水が、これを創り上げたのか。
人が造りし古の隧道の内部が、自然が造りし芸術品の博物館となっている。
冬の北海道には様々な氷の祭典があろう、だがどれも、人の手によってなされたものに過ぎない。
言葉を失う美学とは、大自然という巨大な力によってのみ作られるのかもしれない。
そんな景色は、ファンタジーのゲームの中にしかないものだと思っていた。
それが、こんなところにあるじゃないか。目の前に、あるじゃないか!

圧倒された。
その迫力に圧し潰されそうだった。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 25 期間限定のこの氷の柱は、そろそろ終焉の時期を迎えていた。
温度変化だけでなくとも、いろいろな要因で柱の姿は変化している。
足元には崩れた氷のかけらが散乱しているし、落下した氷のかけらが新たにできた氷の中に閉じ込められていたりもしていた。
天井からぶら下がるツララが、この暖気と人の侵入をきっかけにして、落下してくる危険性は少なくない。
ヘルメットなしでは進めないところだった。

よもやこの巨大な氷柱が倒壊してくることはなかろうが、その脇を掠めて歩くのはさすがに緊張する。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 26 三つの柱に囲まれた部分は、これまた天然の氷の祭典。
それぞれの柱を造った水の残りが溜まり、大きなプールを形成していた。
無論、それもガチンガチンに凍った氷のプール。
一方で、表面に薄く流れる水のせいで、氷のプールは天然のスケートリンクになっていた。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 27 沢登り装備ならば整えたこともあるが、さすがに氷歩き対策はしたことがないぜ・・・

外界にあるような氷とは根本的に違い、水が流れる氷というのは恐ろしく滑る。
しかも、水が流れていることからわかるように、わずかな傾斜があることが問題だ。
滑って滑って足が前に進まない。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 28 柱地帯の向こう側は、プールの水が流れ落ちていく。つまり、下りの傾斜だ。
相当慎重に進んでいったが、やはりそこはお約束。
この写真を撮った直後、思いっきり尻を打った・・・
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 29 圧倒的な氷柱を振り返って撮影。
隧道の中が、どこかの鍾乳洞になったかのようにも見える。
人工なる隧道と、自然なる氷が生み出した、脅威の融合体。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 30 隧道が放棄されてから少なく見積もっても50年は経過している。
おまけに、竣工は113年も前の隧道だ。
それだけでもきわめて希少価値の高い隧道といえるのに、隧道よりも"氷の洞窟"としての迫力があまりにも圧倒的過ぎた。
もしもこれが夏場に探索していたとしたら、これほどまでに圧倒されていなかっただろう。
ただ、ポータルの芸術点だけでも特筆に価する逸品である。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 31 巨大な氷柱の先にも、小規模な氷の柱があった。

よほどひどい漏水があるようだが、意外にも内壁の崩落はそれほど多くない。
そこまでの漏水が起こるという時点で隧道の弱体化は明らかであり、その中で113年もこの隧道が耐えていることが驚きだ。
もしも、その漏水が近年に起こったものならば、近いうちの大規模な崩落を予感させる。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 32 いやいや、氷柱ばかりじゃなくて、他も目を向けなければ。
壁一面には、べっとりと煤煙がこびりついていた形跡がある。
それが剥がれた部分には、レンガの鮮やかな赤が覗く。
氷柱の深い青と実に対照的だ。
JR函館本線旧旧線 初代伊納隧道 33 ほとんど外などどうでもよくなっていた。
季節限定だし、完全に自然の造形であるがゆえに、同じ形をした氷柱は二度と作られない。
否、今日と明日ですらも変化しているだろう。
日々刻々と変化する氷のオブジェは、まさに自然の賜物である。
廃隧道という舞台が、自然が織り成す芸術の祭典会場となる───
その隧道を破壊しかねない漏水と凍結・融解も、このときばかりは貴重な光景となるのである。

次回は反対側坑口とその先の様子をお伝えする。
[ 11' 3/31 訪問 ] [ 11' 7/17 作成 ]
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