JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 2

概要

JR室蘭本線旧線 伏古別隧道の地図
二つ並んだ煉瓦隧道というなかなかお目にかかれない物件は、両方とも内部で人為的に閉塞されていた。
寒空の中、国道に迂回して東側まで歩いていくことにしよう。

2-1 虎杖浜隧道

JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 16 静かでほのかに暖かかった隧道を出ると、向こうから寒風を切り裂いて特急列車が突っ込んできた。
あれは函館と札幌を往復しているスーパー北斗という特急だ。
このあたりはせっかく電化したのに、室蘭より先は非電化で単線区間もあるなど、改良は進んでいない。
猛スピードで駆け抜けるこの列車も気動車である。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 17 線路と並行する国道36号線を通り、反対側坑口を目指す(■現在地)。

線路が伏古別隧道で抜けるサミットを、国道は虎杖浜(コジョウハマ)隧道という古い隧道で抜けている。
隧道は昭和34年竣工で、現在改築中。というか、横の斜面が掘り下げられており、路線付け替え工事中といったところ。
以前目にした記事によると、隧道は開削されて消滅するという。
そんなに狭い隧道じゃないんだがなあ。

2-2 新旧交代

現在地
稜線を越えられたとはいえ、目指す坑口へすぐに通じる道は無く、最も近接する道路までも踏み切りを通っていけば2kmはあるし、道路から坑口へとつながる道はそもそも存在しない。
寒いよ〜長いよ〜自転車に乗りたいよ〜
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 18 向こう側の坑口から歩くこと50分、そろそろ旧線の分岐箇所が近づいてきた(■現在地)。
地図上ではここから旧線に通じる道が描かれておらず、雪原歩きを覚悟していたのだが、ありがたいことに線路へ近づけそうな林道があるじゃないか。
アプローチはこれを利用しよう。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 19 雑木林の中を道なりに進むと、現在線の線路につきあたった。
ちょうどこのあたりが新旧分岐地点で、写真は苫小牧方向を向いて撮影。
現在線は奥から手前にかけて緩やかにカーブしているが、昭和55年まで使用された旧線は今私が立っている足元までまっすぐに延びていた。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 20 同地点から登別駅側。

かつての路盤は図中黄色のところで、こちら側からではほとんどそれとわからないほど自然に帰っていた。
足元にも当時の痕跡らしいものは見当たらない(凍ってるけど)。
現在線脇には廃レールが山積みされていたが、旧線に由来するのかどうかは不明。

轍が続く現在線脇の路盤は保線用の通路で、ここからはこちらを歩いた。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 21 このあたりの路線は青函トンネルを経て本州と北海道(札幌市)を結ぶ大動脈。
さっきからひっきりなしに特急やら貨物列車やらが往来している。
今度やってきたのは真っ青なDD51重連に率いられた、寝台特急北斗星(上野-札幌)だった。
かつて旧線で活躍していた蒸気機関車D51を置き換えるべく生まれたDD51が、新線で活躍する姿はまさに新旧交代そのものを表しているようだ。


このあたりまでは車でも入ってこれるため、鉄道の撮影スポットにでもなっているのかもしれない。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 22 凍っているとはいえ雪中行軍とは比べ物にならないほど快適だった保線用通路は現在線のトンネル手前で終了。
切り替え後に植林したらしく、この先に続くはずの旧線の路盤はまったく判断がつかない。
雪道なので足跡が残りやすく、林に入っていく人間の足跡が確認できた。これを追って右の林の中に突入。

2-3 人間以外の好き物

JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 23 おお!なんとなくそれっぽい!

藪の薄まった光景にかろうじて旧線の痕跡を見る。
けれどその痕跡はあまりにも薄く、煤けた往時の姿を想像するには物足りない。


旧線はこの先で小さな川を渡り、緩やかに左にカーブして伏古別隧道に入っていくはずだ。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 24 路肩には朽ちた看板があった。
看板は半ばまで水に浸かっており(ただし凍結している)、ここでは近づくことはできなかったが、同じものがこの先にももうひとつあった。
錆びた文面を解読すると
0.6メートル××に通信ケーブルあります。切断しますと列車が止まりますので、近くで作業するときは連絡してください。虎杖浜駅長 (以下連絡先。×は解読不能)
と書かれていた。虎杖浜駅は私が最初に降り立った登別駅のひとつ苫小牧側にある駅で、現在は無人駅である。
有人だったのは現在線に切り替えられた昭和55年までであり、「虎杖浜駅長」とあるこの看板は旧線時代の遺構であろう。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 25 旧線はアヨロ川という小さな川にぶつかった。写真は下流方向を向いて撮影(奥が現在線。現在線はすでにトンネルの中)。
現役時代にはこの写真の場所に単線規格の橋を二本かけて川を渡っていたのだが、今では橋台の痕跡すらなかった。
唯一、ここが周辺と違う証拠として、ちょうど橋があったところだけに護岸工事が施されている。


明治時代の最初の路線開通の際には、川の流量もはっきりしなかったため、仮の木橋で場をしのぎ、後に洪水量を見極めて鉄橋に架け替えるなどの手間があったという。
このため、工事費は予定額の四倍にも達し、難工事から死者も出たといわれる。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 26 川は浅く、身を切るような冷水も長靴には通じない。
渡渉は難なく成功したが、川を越えるとそれまであった人間の足跡が消えてしまった。
一見それらしく続く明瞭な足跡は、人間ではなくエゾシカのものだ。
また、藪の凹凸のようなかつての痕跡もすっかり無くなり、ここからは地図を見ながら隧道を目指した山歩きとなる。
その隧道のほうへと一直線に伸びるエゾシカの足跡・・・鹿にも明治隧道の良さがわかるのかな?
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 27 ザクッザクッギュッギュッ、と、雪原を行く音が適度に心地よい。
この地域は北海道でも雪の少ないほうで、思ったほど雪漕ぎの苦労は無かった。

しかし───寒いのは如何ともしがたい。
隧道の向こう側坑口から、氷点下の中をもう1時間半ほど歩き続けている。
厚着した体はともかくとして、顔が・・・凍りそうだ。
唇は麻痺しかけてまともに動かない。ICレコーダに吹き込んだ音声メモは、後で再生したら「まみむめもばびぶべぼ」が全然言えていなかった。
うわ言のように「(ゴオオオォォォ)あふ・・・(ザクッ)さふい・・・(ザクッ)」という悲壮なぼやきが繰り返されている。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 28 古びた低い土留めが、ここが自然の原野とは異なることを教えてくれる。
路盤に生える木々の密度はもはや山野のそれと変わりない。
隧道に向かっていまだ延びる動物たちの足跡も、右往左往しながら進んでいる。

遺された鉄道の痕跡は乏しく、架線の張られていない電柱(昭和33年の文字あり)、上で見たのと同じ看板、後はこの土留めの擁壁くらい。
地面は雪に覆われていて不明だが、おそらくバラストすら残っていないだろう。

2-4 山の中の明治隧道

JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 29 新旧分岐地点から歩くこと30分、とうとう目の前を山腹が塞いだ。
複線規格にしては広い路盤がその山に突っ込んでいく。


動物の足跡はまだ続いている。
どこまで行くんだ。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 30 木々の密度が濃くてここまで近づいてもまだ全貌は見えてこない。
さらに前進。
JR室蘭本線旧線 伏古別隧道 31
ついたあ〜・・・
もう寒さというか顔面の冷たさしか感じない。
いやそれすらももう麻痺しつつあるような。
117年前と83年前の古き煉瓦隧道は私を暖めてくれるだろうか。
[ 09' 1/24 訪問 ] [ 09' 2/15 作成 ]
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