北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 1

概要

北海道道78号支笏湖(しこつこ)線は千歳市美笛(国道276号)を起点とし、支笏湖西岸に沿って北に延びたあと、 恵庭岳を回りこんで恵庭市盤尻(国道453号)に達する延長16.2kmの主要道道である。

車道としての開削年代は調べがつかなかったが、起点・終点の国道の整備年代や道道にあった橋の竣工年を参考にすると、昭和40年代の初めと思われる。
道路としてはかなり近年に開削された部類に入るが、そもそも和人(本州系日本人)が初めて支笏湖に到達したのが安政4年(1857年)と遅い。
また、支笏湖は外輪山に囲まれたカルデラ湖のためアクセスが難しい上、明治22年には周辺が皇室財産となったため、容易には手がつけられなかったのである。
大正や昭和の時代に至っても、札幌から南に30km弱という好立地にありながら、湖畔には一部企業の社屋や関連施設程度しかなかったという。
戦後になると逆に手付かずの自然が見直され、昭和24年には湖周辺が国立公園に指定されるものの、かえってこれが観光資源となることが期待されたのか、 この年に札幌から支笏湖へ至る道路(現在の国道453号)の開削が決議されている。
さらに、昭和47年に予定された札幌オリンピックでは恵庭岳にスキーコースが作られることになり、おそらくそこへのアクセス路として、この道が誕生したのだろう。
昭和45年に道道673号に指定された後、平成6年に路線番号が78に変更された。

スキー場までの道が比較的良く整備された一方で、それより先の支笏湖西岸に沿った5.4kmの区間は、地形上の制約からか、全くといっていいほど整備がされていない。
道は湖岸に切り立つ崖と湖のわずかな隙間を進んでおり、舗装すらされていないのである。
もとよりこの区間は冬期通行止めであったというが、路線番号が変更されてからわずか3年後の平成9年、落石によりとうとう通年通行止めとなってしまった。
そのゲートは常に固く閉ざされ、刻々と廃道化の道を進んでいるようだが、一方では倒木を除去したりなど、ある程度の手入れはなされているようだった(平成16年の実走経験より)。
にもかかわらず一向に開通する様子を見せない道が今どうなっているのかと興味を持ち、平成16年の訪問から4年後の平成20年秋、再び現地を訪れた。


そこに見たのは、着実に消されていく道路の存在証明と、きっとこの道の息の根を止めるであろう致命的な傷跡だった。

1-1 オコタンペ湖

今回は国道453号を札幌側から南進してきた。
札幌側からだと外輪山の稜線を越えなくてはならず、標高600メートルくらいまでキコキコ自転車で登ってくるのは正直しんどい。
ちなみに札幌の自転車乗りの間では、自転車で支笏湖を目指すことを「シコる」という。変な意味じゃないですよ?
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 1 国道と道道の分岐点。
頭上の青看には早くも道路の存在を抹消しようとする意思があった。
青く塗りたくられた看板の下半分には、確かに「20km 美笛 →」と書かれていた痕跡が残っている。
美笛という地は通行止め区間の向こう側だ。これはもう、二度と通す気はないようにしか見えない。

4年前の記憶は定かではないが、確かあの青看に美笛の文字を見た気がする。塗りつぶされたのは最近のことかもしれない。


消された道を目指すべく、右折。
通行止めとなっている区間はまだだいぶ先になる。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 2 右折直後から、通行止め予告の看板のオンパレードが始まった。
どういうわけかこの道、最新の地図でも通行止め区間に「悪路」とか「冬期通行止め」などと書かれており、 挙句の果てには「週末には対向車注意」と書いてある地図まである。
お前は一体何を見てその地図と注意書きを描いたんだと、呆れ返るばかりだ。

そういったいい加減な地図の"被害者"達が、いまだにこの道に迷い込んでくるのである。
この日も、数台の車の運転手達が、これらの標識を見て困惑していた。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 3 上の標識にあったオコタンペ湖という小さな湖を脇に見ながら、山深い道を進む。

オコタンペ湖は北海道三大秘湖の一つに数えられている。
秘湖といいつつ、いまや札幌市中心部から車で1時間もかからない所にあり、珍妙な印象を受ける。
これは昭和40年代まで満足な車道が通じていなかったことの名残と思われる。
ただ、道道からオコタンペ湖畔までの道は公式には存在しないため、何とか秘境のメンツを保っているといえるかもしれない。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 4 沿道にある道路構造物のいくつかには竣工年が書かれており、いずれも昭和43年前後である。
現在でも通行可能な、よく整備された区間は札幌オリンピックの際に作られたスキー場まで。
車道開削の目的というのも、スキー場建設のためであったのかもしれない。


なお、このとき作られたスキー場は国立公園内にあったことで環境破壊の象徴として大いに批判されたという。
スキー場はオリンピック後に植林され、いまや地形図にかすかに当時の面影を残すのみである。

1-2 通行止め区間へ

北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 5 オコタンペ湖展望台を頂上として、標高400メートルくらいを一気に駆け下りてきた。
ちょうどここが支笏湖畔であり、通行止めはここから始まる。
この辺の地名を奥潭(オコタン)といい、かつては温泉宿もあったが今はキャンプ場があるのみで、 展望台より先へ向かう車は事実上このキャンプ場利用者に限られる。

行楽シーズンでもあり、人はそれなりにいる。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 6 ゲート手前から振り返って撮影。
立派な青看は一体誰に向けて案内していることやら。


付近を撮影していると、エゾリスが目の前で餌を集め始めた。
この日はあとで支笏湖をぐるっと回ってみたが、エゾリスに3回、シマリスに1回遭遇。
さすがに大自然王国北海道である。ビクビクしながら熊鈴を装備した。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 7 今のところは一時的な通行止めという扱いであるためか、周辺の標識はほとんど現役さながらに残されていた。
通行止めのバッテン看板と並んで「24時間雨量80mm以上で通行止め」とか、すでに全く意味を成さないものまで備わっている。

舗装はゲート手前でなくなっており、ここからは砂利道だ。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 8 自転車を担ぎ上げ、かなり強固なゲートを乗り越える。
その瞬間から車道臭は跡形もなく消え去り、単なる森の小道になってしまった。
しかし、刈り払いの形跡はあり、通行止めとなりつつも完全廃道とまでは至っていないようだ。
4年前に訪れたときは台風が直撃してすぐの頃で、周辺の林道が倒木で封鎖されていた中、この道は万年通行止めでありながら倒木も片付けられ、 向こう側まで難なく行くことができた実績がある。
通すのか通さないのか、どっちなんだ?
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 9 車道らしくない光景に自動車用の標識・・・いいね、いいよこの道。
あくまでも車道のメンツを保とうとするこの標識のなんとけなげなことか。

惜しいのはすぐ横の湖面をモーターボートが走り回っているため、廃道独特の孤独感がないことだろうか。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 10 両脇から薮が侵食しており、すでに自動車が通れる幅員はなくなってしまっている。
もっとも、本当に刈り払いがなければ、この程度の薮では済まされないはずだ。
あちこちに工事用の標柱があり、平成17年やら19年やら、少なくとも年に一度は大きな手入れが入っている模様。
どこをどう工事しているのかはさっぱり分からないが・・・
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 11 その工事の結果なのか、カーブミラーなどが増設されているようだった。
いくら刈り払ってもせいぜい1.5車線のこの道では必要なものだろうが、費用対効果を考えるとどうなんだろう。
ゆくゆくは開通したときのために・・・ということはあるまい。道道終点にあった抹消された青看を見る限り。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 12 この道は標識がいっぱい。
薮に包まれかけた道にこういうのがあるのは本当に燃える。
こういう古いものからやたらピカピカしたものまで千差万別だ。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 13 またレアな標識が・・・
いまや新造されることのない、「注意 CAUTION」の標識だ。
この標識は昭和26年から46年まで設置されていたという。
しかし、先ほど通り過ぎたには昭和56年竣工とあり、 こんな廃道一歩手前の道でもかつては橋の架け替えなどの改良工事が行われていた可能性がある。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 14 CAUTIONの標識はこの先もいくつか目にされた。
新潟の旧道や廃道では、この標識をほとんど目にした覚えがない。
北海道道78号 支笏湖線 万年通行止め区間の最期? 15 うっひゃー狭い狭い。
垂直に切り立った崖は古びた落石防護ネットで覆われているものの、それを突き破った落石が転がっている。

こんな道でも、わずかに14年前までは確実に自動車が通っていたのだ。
崖と湖面に挟まれた辺りには待避所もなく、通行は難儀しただろう。
北海道には珍しい道である。
本州ではこのぐらいの幅員の県道、いや国道であっても不思議ではなかったりする。
本州なら、この道に舗装&法面補強することで普通に通行可能とするだろうに、 「広い」北海道のプライドとして、細い道は許されないのである(国立公園内なので改良しにくいという事情もある)。

だがしかし、この先にあった光景は、中途半端に手入れされ続けるこの道に絶命を決定付けるようなものであった・・・
[ 08' 9/21 訪問 ] [ 08' 10/16 作成 ]
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