新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 2

概要

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道の地図 目の前の封鎖は強固。
壁一面に貼り付けられた金網は腕すら通さず、わずかに開いた足元の隙間も高さ15cmとあっては取り付く島もない。

しかーし。
目の前のものに囚われていては的確な判断は下せない。
物事は常に多面的に、そう、「観察は選択の幅を広げる」。
これは私の本業、研究者としても大事なことだ。

2-1 多面的な観察

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 15 金網の隙間から覗き込むと、70〜80メートル先で崩落しているのがわずかに見える。
崩落地点の直前に看板があるようだが、とにかくここからでは遠い。


目の前の金網を抜けることは叶うまい。
そこで私が注目したのは、スノーシェード横にある隙間(左下)。
スノーシェード自体は壁面もプラスチックの板で覆われており、ホイホイ入って行けるようにはできていない。
しかし壁を成す板さえ越えられれば、次の障害である5本の金属の柵は地面との隙間を這いつくばって入っていける程度の隙間がある。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 16 スノーシェードの横に出てみた。
緑の木々に見え隠れして、茶色い崩落岩盤が見える。
ちょうどスノーシェードが地中に消えるあたりで崩れており、崩落は稲葉隧道東側坑口で起こったようだ。

さて、このスノーシェードの壁を抜けなければ。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 17 行ける、これは行けるぞ!
プラスチック板も、足元の隙間は膝くらいの高さはある。
これならば、もぞもぞと潜り込むことができそうだ。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 18 案の定、並んだ柵も下を潜れそうであったが、柵とプラスチック板の間には30cm程度の隙間があり、そこを利用して柵を乗り越えて突破した。
泥にまみれ、体を駆使して行き着いた先が、崩落した廃隧道の中というのが情けない。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 19 封鎖のすぐそばに、"囚われの身"となった看板がぽつんと立っていた。
もうこの看板が、稲葉隧道で活躍することは二度とないというのに。
隧道最後の事故が、まさかその隧道の息の根を止めるものであったとは、いったい誰がそれを想像したであろうか。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 20 お伝えしている通り、稲葉隧道東側坑口は100メートル近いスノーシェードで延伸されている。
もちろんこのスノーシェードは後に設置されたものなのだが、実はこのスノーシェードができる前、ここにはなんともうひとつ隧道があったという。

最初の隧道が開通して間もない昭和26年12月25日のこと、終業式帰りの児童3名が雪崩に巻き込まれ、うち一人が亡くなるという事故が発生した。
この悲劇を繰り返すことのないよう、その場所にもうひとつ、新たな隧道が誕生したのである。
二本目の隧道は正確な竣工年や工期も不明であるが、昭和27年の冬の頃であったとされる。
全長は50メートルほどで、これもまた集落の人々の手によるものであった。

しかし、その隧道(仮に稲葉第二隧道と称する)は昭和45年頃の改良工事の結果、"大部分は"開削され、消滅したらしい。
残る一部に関しては、当時の姿のまま、このスノーシェードの陰にひっそりとたたずんでいる、と「越後手掘洞門物語」にあるのだが・・・
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 21 これ、か。
壁のはずのコンクリートの一部に、木製の扉がつけられている。
これがその稲葉第二隧道である証拠があるわけではないが、資料が正しいのならば、おそらくこれに間違いあるまい。

開けてみればすぐに答えは出るのだが・・・すまない、現地では上記の情報を持っていなかったため、「なんだこりゃ?」で写真を撮って通り過ぎてしまった・・・
扉には取っ手がついているのは分かるのだが、鍵がかかっているのかどうかはちょっと判断できず、ひょっとしたら開くかもしれない。
また、一本の隧道をどう開削したところで、入り口が一個あれば必ず出口がもうひとつ以上あるはず。
ということはこのほかにもどこかに坑口があることが考えられる。
スノーシェードのコンクリートで塞がれているかもしれないが、これらについてはまた追って調査したい。

2-2 禁忌 ─Taboo─

興味深い対象を見つけながらもそれをスルーしてしまったのは、ひとえに「崩落」というあまりにも大きな存在に目が眩んだからに相違ない。
それに誘われるように、しかしその絶大な脅威に身を震わしながらも、一歩一歩近づいていく。
100メートルにも満たないスノーシェードがひたすらに長く感じる。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 22 来た・・・
封鎖手前からも見えた看板には、脅しのような恐ろしい注意書きがあった。
「ここより先の区域 絶対立ち入り禁止
絶対だってさおい。
さらに看板には続いてこうある。
「視察関係者、調査関係者、工事関係者等もこれより先への立ち入りは当分の間厳禁します。」
これが絶対 ─absolute─の所以である。
よくある「関係者以外立ち入り禁止」などというヌルい文言などではない。
「関係者すら立ち入り禁止」なのである。
それも、小学生でもわかる「絶対」なんつー単語が余計に事の深刻さを印象付ける。
これほどまでにわかりやすく、強烈な衝撃を与える立ち入り禁止の看板を、私は見たことがない。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 23 それでも、絶対禁忌とされたその領域に、私は一歩足を踏み出した。
こんなにも重苦しい一歩は初めてだ。
これが、命のやり取りの、重みなのか。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 24 もう一歩踏み出した。
限界だ。
かつて信越本線旧線 米山八号隧道で恐怖のあまり逃げ出したことを思い出す。
あの時は得体の知れない暗闇に慄いたのだったが、ここは現実的な恐怖が目の前にある。
さらに、まだそこに得体の知れない何かが潜んでいることを、先の看板が「絶対」というとても単純な二語で教えてくれた。


砕け散った岩塊は隧道の坑口から溢れるように流れ出し、完全に隧道を塞いでいる。
反対側の坑口にもあった波形トタンを突き破り、無残な遺骸を天井に残している。
登ったりはしなかったが、なんらの隙間も見られない。
ここを復旧しようにも、粉々になった岩は除去すれば除去した分だけばらばらと崩れてくる、蟻地獄のような有様だ。
歴史深い稲葉隧道ではあるが、復旧断念の決定もこれはいたし方あるまい。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 25 ここは長居する場所ではない。
絶対禁忌領域に足をつけていることが、罪悪感というよりも焦燥感を感じさせる。
速やかに、立ち去ろう。
意外な発見からその場所へと達したのは良かった。
だが、私にはまだやり残したことがある。
完了したのはスノーシェードの探索だけで、稲葉隧道そのものの内部には入れていないのだ。
隧道のこちら側は完全に閉塞されており、ここから入ることは不可能。
だとすれば、越えられなかったあの封鎖───反対側の坑口の、あの封鎖を攻略するしかあるまい。

果たして、そこに道は通ずるのか?
何一つ望みなど持ち合わせないまま、私はもう一度あの場所へと向かった。
[ 07' 5/26 訪問 ] [ 07' 6/12 作成 ]
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