新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 3

概要

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道の地図 崩落地点の直前までたどりついたは良いが、隧道の探索はいまだ行えず。
このまま封鎖の前に敗退するより他はないのか・・・

3-1 トリック

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 5 再び付け替え道路を通って南側坑口に着いた。
「やり残したこと」とはもちろん内部探索もそうなのだが、実は最初に訪れたときは右側のお不動様の写真などを撮り忘れていたため、 内部探索は無理としてもせめて周辺の写真だけは、という気持ちでここへ戻ってきたのだった。

しかし・・・
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 8 やはり駄目なのか・・・? あきらめきれないその気持ちは行動となって現れる。
もう一度這いつくばり、地面と扉の隙間に頭をぐりぐりとねじ込んでみるも、下手をすれば嵌ったまま抜けなくなるかもしれないことを考えると、そうそう無理もできない。

これはもう・・・駄目だ。
すっかりあきらめ、自転車に跨ったまさにその瞬間であった。

「そういえば、向こう側を探索できたのは、スノーシェードに隙間があったからだよな・・・」



・・・ここはどうだった?
一見したところ確かに反対側にあったような大規模なスノーシェードはないが、本当にそれを確認したのか?
目の前の強固な封鎖ばかりに気をとられ、観察がおろそかになっていやしないか?



・・・もう一度だけ、見てみるか。
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あった・・・

3-2 Unbalanced High-Tension

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 27 なんということであろう!
よもやあるまいと思っていた隧道への入り口が、あのお不動様の後ろに隠されていたのである!!
ああ、まるで竜王の玉座の後ろに階段を見つけたような、なんとAdventurousな展開なんだ!!!


などという興奮もありながら、一方で「ああっ、見つけちまった・・・」ってな気分があるのも真実。
どうにもならない封鎖で引き返したのならば、たとえ内部を探索できなくとも心の整理はできよう。
しかし、そこに道を見つけてしまった以上、もはや引き返す理由がなくなってしまったのである。
見つけたからには、やっぱ、いかねえとなあ・・・と。

草木をかき分け、たった30センチの隙間に体をねじ込む。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 28 反対側の坑口と同じようにしてスノーシェードと柵を乗り越え、再び囚われの身となった。
帰りを待つ相棒が坑口にいる。
あいつに跨り、帰ろうとした瞬間に、進入口について思い出させられた。
その結果、なかったはずの入り口が現れたのだ。
この探索は、あいつの意思なのかもしれない。
死んだら怨んで出てやる。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 29 嫌な空気だ。
じっとりした空気が冷気と入り混じりながら、ねっとりと私の体をくすぐる。
30メートルほど奥で大きく方向を変えており、すぐに闇の中に沈むだろう。
崩落は反対側の坑口付近で起こっているので、あそこを曲がった先にあるはずだ。

・・・行こう。

3-3 稲葉隧道内部

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 30 現役隧道の崩落という、一歩間違えば大惨事のこの事故であるが、行政は隧道の変状には気がつかなかったという。
ただ、老朽化していたことは事実で、狭い幅員もあって、改築工事の要望はそれまでにもあったとされる。
天井のあの歪み、ただのトタンの歪みなのか、それとも・・・
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 31 埃っぽい洞内、先に明かりは一切ない。
崩落の瞬間には、圧縮された空気が爆風となってここを駆け抜けたのであろう。
その轟音は幾許かのものかと想うが、あれから3年以上の時を経た今、響くのは静かに落ちる水滴の音だけだ。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 32 戦後すぐに完成した手掘り隧道も、昭和40年代の改良工事によりすっかり姿を変えた。
かつてあった明り取りの窓はなく、鉄板で巻きたてられた姿には、ダイナマイトで発破を仕掛けながら進んだ当時の面影は微塵も感じられない。
そうして行き着いた最期の姿が、この封鎖、そして完全なる放棄なのである。

このやるせない喪失感は何だろう。

3-4 闇に浮かび、また沈むもの

新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 33 大きく右にカーブすると、案の定周辺は完全に闇に支配された。
その直後、今まで幅員4メートルほどだったのが、突如として1.5倍ほどの広さになる。
ちょうど長大トンネルの非常駐車帯のように、左側にだけ膨らんでいる。
これは改良工事の際に作られた、車両待避所だ。

そして、ほんの数十メートルのその広い待避所の先で、私はまたも「アイツ」に出会ってしまった。
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ぼう・・・っと・・・・・・
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 35 出会いたくはなかった・・・
ちょうど待避所の終点、この先で再び幅員が狭まるその地点に、反対側の坑口で見た看板と同じく示していた。絶対禁忌領域を。
その恐怖は反対側の坑口で見たそれとは比較にならない。
闇に包まれた中で異様な存在感を示す白い看板、そして鮮血の如き真紅で示された絶対立入禁止の文字。
そう、それは崩落の予告に他ならない。


だが───それでも。

私はこの先が気になるのである。
思うに、人の「怖いもの見たさ」というのは、人が人たるに必要な、本能的、本質的な欲望であると考える。
人類以外の動物は、危険な物へ近づくことは決してない。
人類だけが、火に近づき、刃物を利用することを知った。
そのことが人類の繁栄をもたらしたのである。
恐ろしいもの、危険な場所を求め、その真実を見極めたいというこの衝動は、Homo sapiensの遺伝子が、人類としての進化を望んでいるからなのかもしれない。


そうして進めた一歩の先に、ついに私は見た。
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圧滅の場所を───
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 37 平成14年1月25日。
それがここ稲葉隧道の命日。
集落が一丸となって掘り進め、竣工させた手掘り隧道がひとつ、消えた日である。
それは、稲葉隧道の歴史が詳述された書籍、「越後洞門 手掘隧道物語」の刊行からわずか3年後のことであった。
まことに数奇な運命をたどった隧道といえよう。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 38 膨大な量の土砂は隧道断面を完全に覆いつくし、その先に全く光は見えてこない。
グシャグシャにひしゃげた巻きたてが天井からぶら下がり、本来は隧道内にありえない惨状を作り出している。
崩落のみならず、よく見ると右側の側壁も明らかに変形しており、いつ私が立っている場所も埋まるか分からない状況だ。
絶対禁忌領域の先、暗闇に沈んだその光景は、先ほどまでの好奇心のドキドキとは違う、吐き気をもよおすような怖気を感じさせた。
新潟県道346号 親柄大白川停車場線 稲葉隧道 39 振り返って撮影。
実際の崩落地点まではあと数メートルといったところだが、この絶対禁忌領域には人類の進化もへったくれもない。
この場所は寒すぎる。
帰ろう。
人々の想いが詰まった稲葉隧道も、もう闇に沈んだ。
坑口が密閉されずにあるのは、たとえ崩落したとしても、その歴史までもを封印させまいという決意の表れかもしれない。
その歴史の語り部のように坑口に鎮座するお不動様は、今も通ることのなくなった旅人を待ち続けている。
この探索が無事に済んだことをお不動様に感謝しつつ、私は静かに稲葉隧道を去った。
[ 07' 5/26 訪問 ] [ 07' 6/20 作成 ]
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