国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 1

概要

国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道の地図 私の大好きな「ドマイナー旧道・廃道」にまたひとつ、新たなメンバーが加わった。
「国道229号?今まで散々出てきたじゃん」と思われるかもしれない。
その通りである。
マイナーたる所以は、須築トンネルというトンネルの旧道にある。
そこに、絶壁に刻まれた道人道用の素掘り隧道があることは、あまりにも知られていない。


須築(スッキ)トンネルは国道229号にあり、せたな町市街から北に約15km行ったところにある。
トンネル名の由来となった須築とはトンネルの北にある漁村の集落名であり、かつては運上屋(交易の中心地)もあって栄えた地である。
しかし、須築から南のせたな町まではいくつもの断崖に阻まれた険しい海岸線が続き、北には北海道三大険路のひとつ、茂津多岬があって、須築の集落に自動車が通れる道が完成したのは昭和40年代の中ごろであった。
このときにせたな町からの道路が完成し、須築トンネルもそうして誕生した。

では、須築トンネルができる前の交通事情はどうだったのか。
徒歩道の歴史は、安政四年(西暦1857年)、江差と津軽の二人の商人によって開削されたところに始まる。
このときの記録に隧道の記載はなく、おそらく山越えの道であったことが想像される。

その後、明治時代には海岸線に隧道が開削されたところもあったが、須築トンネルが貫通する藻岩岬だけは、隧道を開削したという記載が見つからない。
実際に古い地形図を並べても、藻岩岬を回る海岸線の道が記載されたことは一度もなく、昭和40年代に須築トンネルができるまで山越えの徒歩道が記されているだけであった(これが前述の江戸時代の徒歩道に由来するかどうかは不明)。
すなわち、もしも岬を回る道があるのだとすれば、歴史に残らなかった道といえよう。


以上のように、机上調査からはその隧道や海岸線の道は決して見えてこない。
いや、机上調査では「海岸線に道なんか存在しなかった」とさえ結論されてしまう。
そんなときに目となるのが、現地を探索する脚に他ならない。
自らの眼で、脚で、埋もれた歴史を発掘しようじゃないか!

1-1 発見

国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 1 この日は久しぶりの自転車テント旅。
金曜日の夜から車で出発し、車中泊の後に自転車にテントを積んで出発した。

基本的には瀬棚から海沿いに北へ進む予定。
その途中にいくつもの旧道、廃隧道が眠っていることはわかっていたものの、旅の重装備であることや、比較的メジャーな物件が多く、ネット上のレポートも豊富であることから、探索にはそれほど時間をかけないつもりだ。


写真は瀬棚のシンボル、三本杉岩だ。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 2 三本杉岩から北上すること約1時間、照りつける日差しに腕も足も焦がしながら走ってきた。
この間、心沸き立つような強烈な廃道や、ゾクリとする素掘り隧道も随所に見られたが、目立つ分先達によるレポートも多い。
詳しい探索はまた改めて。

そんな風にほとんどの旧道や廃隧道をスルーしてきたわけだが、唯一、この巨大な岩山をくりぬくトンネルだけは、スルーできなかった事情がある。
この写真を撮ったときには、別にこの先に何を期待していたわけでもなかった。
なんとなく、迫力ある岩山にカメラを向けただけであった。
行かねばならない事情が現れたのは、さらに接近した次の写真だ。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 3 ・・・わからないって?
そらそうでしょう、現地の私も、あまりの小ささに、それが何であるのか、結論できなかったくらいだから。
でも、怪しい物がこの崖の中腹にあったんです───

遠巻きに見ても信じられないその姿を、カメラの望遠を駆使してズームアップ。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 4
!!!!
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 5 ずずず隧道!!

・・・か?
どう見ても車が通れるような大きさではないし、何より取り付け道路なんかどこにもないぞ?
かといって海食洞にしてはずいぶん高い位置にありそう。
高すぎて、果たしてあの穴ぼこの入口に立てるかどうかも不安になるくらい・・・
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 6 現道は藻岩岬と呼ばれる岬を直線のトンネルで貫いている。
それが須築トンネル(昭和44年竣工)である。
北海道の国道トンネルには珍しいくらいの古トンネ ルといっても過言ではない。
延長は596メートルもあり、この時代のトンネルとしては長いほうだ。

正体不明の小さな穴は、藻岩岬の先端を目指しているように思える。
そうすると、あの穴が須築トンネルの旧道の名残なのだろうか?
・・・徒歩道ですよ?

1-2 道?

国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 7 須築トンネルの瀬棚側からは特に道路の分岐などはない。
路肩の塀を乗り越えると、そこには崖を削ったような、そうでないような、なんともいえない平場が続いていた。
確かにこのまま進めば、あの「穴ぼこ」の手前くらいには到達できるだろう。
どうにかやって、「穴ぼこ」の中にまで入ることができれば・・・
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 8 キタキタキタキタ!
岩の突端部を回ると、小さな入り江の向こうに小さな穴ぼこ。
ここまで接近しても、その穴が人工物なのかどうかもわからない。
相変わらず、取り付け道路がどこにも見当たらないせいだ。
取り付け道路がないなら、どうやってあの穴に入れようか。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 9 とにかく近づくべく、磯に下りて接近。高いところにありやがる。
幸い地質的に手がかりや段差が生じやすいようで、かなりの急斜面でも何とか上り下りできそうである。


しかしやっぱりあれ、自然のいたずらでできたような構造ではなさそうだぞ・・・
海面からの高さは10メートル以上あって海食洞ではなさそうだし、こんなところにあの規模の風穴があるというのも不可解だ。
ゴツゴツした岩場をフリークライミングでよじ登った。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 10 振り返って撮影。
やはり道はあったように見えた。
足元といえば、わずかに刻まれた幅30cmほどの平場を感じる。
この道が使われていたのがいつごろのことなのか全く情報がないが、現役時代は路肩に石垣でも築き、もう少し幅員を確保していたに違いない。

緑に覆われた部分は崩れたものだろう。
道の痕跡はきわめて薄い。
それでも、ここが道であったことを示すその最たる証拠が、今私の背後に───

1-3 穴ぼこの正体

国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 11
でた!
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 12 隧道、Da!!
崖を這い登って達したその「穴ぼこ」には、立派な出口がある!
大きな崩落もないきれいなその姿は、見紛うことなき素掘り隧道の姿だ。
その規模は幅員・高さ共に2メートルくらいで、自動車で通れたものではない。
人道用隧道に相違あるまい。


波音がこだまする幻惑の素掘り隧道に身も心も鷲掴みにされてしまった。
ロッククライミングで高まった心拍数はさらに最高潮に達した。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 13 入口側を撮影。
坑口の先には平坦な部分が幅10cmくらいしかないようなところもある。
隧道の幅員を考えると、かつてはこの隧道と同じ程度の道幅があったのだろか・・・
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 14 隧道の延長は15メートルくらいで、出口も近いために明かりは必要でない。
わずかに水没した区間を超えると、すぐに出口だ。

人道用隧道ということで、隧道の内部も舗装のほの字もない。
そもそも、この隧道ができた時代に舗装という概念があったのかどうか、それすら疑わしくなるほどに、正体は不明で古びたものだ。
足元はむき出しの岩盤であり、ひたすらに凸凹で歩きにくい。
人の背や馬が道路の主役であった頃の代物だろう。竣工は大正か昭和初期か・・・?
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 15 洞内に響く音が、胸の鼓動か、怒涛の爆裂する音なのかわからない。
“発見”に始まる探索というのはこれほどまでに興奮できる。
「アレは何だ?!」から始まることが大事なのだ。

そんな興奮からたどり着いた反対側の坑口。
岩に穴を開けただけの、実にシンプルな坑口だ。
こういうのを自然と人類技術の一体化といっていいのではないか。
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 16 出口から先といえば・・・
人類技術が見当たらなかった。
時に波間に下りながらも、路盤を辿り得た隧道までの道のりと異なり、見たところ完全な岩場でしかない。
現道の須築トンネルが出てくる場所はまだずっと先であり、岬を回るこの廃道は相当な長丁場になりそうである。
ツーリングメインの今日の貧弱な装備では、このまま進むのは無謀か・・・

1-4 須築トンネル出口側

国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 17 元々この日の自転車旅はツーリングメインであり、探索に十分な装備がそろっておらず、明かりすらろくなものがなかった。
そういうわけでこちら側の探索はひとまずここまでにして、反対側がどうなっているかを見ていこう。


現道を通って反対側の須築トンネル坑口から岬方向を望む。
やはり、その海岸線に道らしいものは全くなく、ただの磯が続いているように見える。
隧道を出た先は道ではなく、磯を歩いていたのだろうか?
国道229号 須築トンネル旧道 釣り人達の古道 18 須築トンネルを出ると、わずかな明かり区間をはさんですぐに次のトンネル(藻岩トンネル)があった。
ここの海側は斜度80度の絶壁で、隧道なしで海岸線を回っていくことは絶対にできない。
そうなると山越えしていたか、かつて存在した素掘り隧道が今の藻岩トンネルに改築されたかだろう。

「藻岩トンネルの上部に道らしい痕跡が見当たらないし、国道の藻岩トンネルがかつての素掘り隧道の成れの果てかな?」
だがそんな想像も更なる探索の結果、新しい“発見”によって覆されることになる───
隧道の先があまりにも痕跡がなかったとはいえ、磯を歩けないレベルではなかった。
準備不足による引き返しの後悔は、その後再訪の機会を得られるまで、喉の奥に刺さった魚の骨のようにちくちくと響いていた。

そんな溜飲を下げるべくやってきた再訪の日、私はこの隧道が序の口に過ぎなかったことを知る・・・!!
[ 11' 7/30、12' 5/5 訪問 ] [ 12' 6/30 作成 ]
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