国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 1

概要

国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道)の地図
国道278号は道南の亀田半島を海沿いに回る、全長114.3kmの一般国道である(滝の沢トンネルに詳しい)。
滝の沢トンネルの項でもお伝えしたとおり、亀田半島の海岸線は切り立った断崖絶壁が続き、 中でも原木、日浦、豊浦の各集落を結ぶ区間は凶悪で、大正時代まではそれらの往来には山越えをするか、海路を行くしかなかった。

これら三集落間の海岸道路開削への努力は、大正10年、戸井村(後の戸井町)、尻岸内村(シリキシナイ;後の恵山町)、椴法華村(トドホッケ)の代表が道庁に赴き、道路開削の請願を行ったあたりから始まる。
大正12年には各自治体が積み立てた一万五千円の寄付金を条件に道路開削を請願し、これを受けて道庁も当区間を準地方費道函館椴法華線に指定の上、開削を決定する。
翌年には最も函館に近い、原木までの道路が完成したが、開削計画に含まれていたはずの原木〜日浦間は着工には至らなかった。
日浦岬と呼ばれるたった1.5kmの海岸線に、後に7つもの隧道を擁する道路を開削するに当たって、当局が憂慮したためだ。
各自治体はさらに寄付金の額を増額して請願に励んだ。実際の着工は年号が変わってからと思われる。

当時の土木事務所長に「管内随一の難工事」といわしめた工事の果てに、昭和3年8月、7箇所もの隧道をくりぬいてついに原木〜日浦間の道路が開通する。
8月23日には開通祝賀式典が執り行われ、当時の尻岸内村長はその喜びを「旱天に慈雨の感を抱かせるに足る」と表現し、如何にその開通を待ち望んだかが窺える。


だがしかし、崩れやすい柱状節理の足元に刻まれた道と隧道は、それがあれば安全に通行できる、というわけにはいかなかった様で、 開通から5年後の昭和8年には早くも「日浦トンネル補強工事ノ件」と題された改修工事の請願を行う羽目になった(請願は昭和13年まで毎年のように行われたらしい)。
その後、戦争の時代となっては道路工事どころではなくなり、抜本的な対策は国道昇格が決定した昭和44年にまで下ることになる。
その翌年に控えた国道昇格を前に、危険地帯であった日浦岬の道路を迂回する、新しいトンネルが山側に建設されることになった。
途中、土砂災害のために開通が遅れたりもしたが、昭和48年に完成し、日浦トンネルと名づけられた。これが現在の国道である。
旧道となった日浦岬の道は、大部分がそのまま廃道にされた。


つまり、日浦岬には、昭和3年に完成し、昭和45〜48年の間確かに国道であった古い隧道が7つも存在することになる。
完成からわずか5年で「補強してくれ!!」と請願されてしまうほどにヤバイ隧道が、たった1.5kmに7つも、だ。
放棄から40年近くも経過したそこには、背筋も凍る恐怖の廃景が待っていた───

1-1 日浦側入り口

国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 1 前回探索した滝の沢トンネルから函館方面に19km。
グッチョグチョに濡れた足が痛むほどに冷える中、出迎えてくれたのは現道の日浦トンネル(昭和48年竣工)の日浦側坑口だ。
その開通式の様子は地元の広報誌の表紙を飾り、トンネルに関する作文まで募集されている。
一方で、当時から海岸線の断崖絶壁といった景色を愛でる人々はおり、「いじわるなトンネル」とも評されている。

旧道への分岐は坑口手前の左に折れる道だ。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 2 分岐から500メートルほどは、漁港へつながる道として現在でも利用されている。
この区間は旧道落ち後に海側を埋め立てたらしく、危険を感じるようなところではない。
昭和初期に造られた隧道も、この区間にはなく、すべてこの先の放棄区間に含まれている。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 3 漁港を過ぎたところが日浦岬である。
道は海岸線よりも少し山側を切り開かれてつけられており、砂利敷きの広場になっていた(おそらく昆布干し場)。
掘割は7〜8メートルほどの幅もあり、両側は見事な柱状節理の壁となっている。
かたや、壁の足元には崩落した岩塊がごろごろしており、地質の脆さを如実に示していた。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 4 断崖の麓にはお地蔵様が安置されていた。真新しい花も供えられている。
付近は海難事故も多発した場所であり、現在でも航海の無事を祈る人がいるのだろう。
私のように陸上交通の安全を願う人間は久しぶりかもしれない。

1-2 お地蔵様「立ち入り禁止じゃ」

国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 5 うっ・・・

お地蔵様の前を過ぎると岬を回り、早速にして鉄柵が封鎖している。
開閉構造のない柵は、40年近くにわたって閉じられたままのようだ。

問題なのは封鎖されていることではなくて・・・その隙間から見える廃道区間のあまりの惨状だ。
目を背けたくなる気持ちを奮い立たせ、隙間に体を捩じらせて侵入する。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 6
無  理
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 7 無理無理ムリムリむりむり!!!!

橋桁どころか、橋台への取り付け部分がごっそりなくなっている。
右側にわずかに残る平均台ほどの幅の路盤はボロボロである上に、このときは風速20メートルを超えるだろう強い向かい風が吹いていた。
はっきりいってじっと立っていることもできない状態で、とても渡りきる自信はない。

また、桁部分もアスファルト舗装はほとんど消えてしまい、竣工当時のものらしいボロボロの鉄筋とコンクリートが覗いている。
この風では幅跳びも難しいし、着地点次第では路盤ごと海中に転落するだろう。
なまじ中途半端に残った橋桁が余計に恐怖を煽る。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 8 橋の向こう側に続く道路の痕跡はわずかな路肩の石垣のみで、その前後はもはや道といえるほどのものは無い。
なんなんだここは・・・
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 9 はい撤収。
早かったね、探索距離3メートル。
上では橋を越えられない理由を強風のせいにしているが、無風だとしてもたぶん引き返したと思う。
百回入ったところで事故にあう可能性は小さい(と妄信している)廃隧道の探索とは違い、この橋を越えようとすると、三回に一回くらいは転落する自信がある。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 10 橋の長さは2メートルくらいだったろうか。
名前は"岩根橋"という。
無論こんな有様の橋に親柱は無く、出典は「恵山町史」による。
これには、昭和3年の道路開通記念式典の様子として、
・・・総勢百余名が参加、式場の日浦の戸井尻岸内両村界、岩根橋々畔に幔幕が張り巡らされ祭壇が設けられ式典は挙行された。・・・
と記されている。
戸井村、尻岸内村は後に戸井町、恵山町となり、その境界がこの日浦岬である。
信じられるだろうか?
あのズタズタの橋に、80年ほど昔、「幔幕が張り巡らされ祭壇が設けられ式典は挙行された」のである。
おそらく、お地蔵様のあったあの掘割の広場が、そのときの会場と思われる。
日浦岬旧道地図
たった3メートルで引き返しの決心をしたのは、お地蔵様が呼び止めてくれたような気もする。
橋が渡れないなら、反対の原木側から攻めてみようじゃないか。

「といっても、橋の向こう側の様子じゃ、(すぐに引き返すことになって)そう長い探索にもならなさそうだな・・・」
そんなふうに考えてた時期が俺にもありました。

1-3 原木側入り口

国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 11 現道の日浦トンネルを通過し、原木側の新旧分岐地点。

現道の日浦トンネルは昭和44年に着工し、本来なら47年秋に完工を迎えるはずだった。
しかし最終年度の昭和47年6月22日午後4時頃、この付近で幅180メートル、土砂量20万立方メートルにも及ぶ大規模な土砂崩れが発生し、 完工が半年先送りになっている。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 12 分岐直後の封鎖はこの先の船着場への立ち入りを禁じるもので、まだ人の手は入る。
「人目のつかない朝早くに・・・」といって訪れると、逆に朝の早い漁の関係者と鉢合わせすることになるだろう。

自転車を脇から侵入させる。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 13 本当の封鎖は、前の封鎖から250メートルほど進んだここから。
封鎖の手前50メートルほどから藪に覆われるようになり、それを越えた先にこの柵がある。
観音開きの扉につけられた古めかしい鍵も、開放されたことはおそらく一度もあるまい。
国道278号 日浦トンネル旧道 日浦岬の原木隧道(原子隧道) 14 どうせ引き返してくることになるので、自転車は柵のところに置いてきた。
こういう展開ではいつもサイドバッグの中に明かりを忘れていくので、そこはしっかり確認しておく。


柵を越えるとすぐ、ゴツゴツして角ばった岩塊が路盤を覆い尽くしていた。柱状節理の岩が崩落した跡である。
こけたら痛ったいぞ〜
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うっわ
いよいよ現れた昭和3年の素掘り隧道。
この先、岩根橋までの距離は700メートルも無い。
そんな短い距離に、素掘りの隧道が7つも連続する。
次回から、廃隧道が怒涛のように押し寄せる!
[ 09' 3/20 訪問 ] [ 09' 4/17 作成 ]
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