国道289号 点線国道八十里越 [中編] 1

概要

国道289号 点線国道八十里越 [中編]の地図 林道からは、東に福島県境である木ノ根峠、西に前編にて敗退を喫した鞍掛峠がある。
今回は前回紹介した林道終点からちょっと戻って、木ノ根峠の方向へと進むことにする。
できれば県境を突っ切って福島県側の車道にまで行きたいのだが、二つの峠を探索してさらに数kmも自転車を担いで行くのは体力的に難しい。
とりあえず、峠に立てればよしとする。

1-1 国道の歴史

国道289号 点線国道八十里越 [中編] 16 前回紹介した、草むらの現役国道から木ノ根峠方向への分岐。
国道、つーか道にすら見えなくても、峠へと至るたった一本のれっきとした国道291号なのだ。
行かねばなるまい。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 17 林道を離れた時点でいきなり自転車には乗れなくなり、担ぐとまではいかなくても、ぐいぐいと押しながら進むことになった。
足元に続くように見える一条の道は、深さ10cmほどの洗削。
自転車がそこにはまってしまうと、2時間近くもかけて林道を登り、ただでさえ消費した体力をなおさら使うことになる。
平野部にあればなんともない道も、半径5kmは誰一人いないであろう山中では気を使う。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 18 日当たりの悪いところにおいては、幅一車線ほどの美しい古道の風体を垣間見ることができる。
ただ、林道との分岐点あたりは江戸時代の道筋とはやや異なり、明治時代の改修によって多少ルートの変更がなされている。
おそらく今私が歩いている場所は明治の道と思われるが、この道とつかず離れず、時には交差しながら進んでいるはずの古来の道はもはや痕跡もない。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 19 思えば、明治時代の道がいまだに、それもこんな山中に、良好な状態を保っている所は他にあるまい。
いくら歴史ある八十里越とはいっても、同じように歴史深い峠の街道が進めないほどに荒廃しているところはいくらでもあるだろう。
それらと違うのは、国道に指定されたかどうかにあることはおそらく間違ってはいないはずだ。
「登山道国道」となれば、衆目を集めるところとなり、結果として人の手が入ることになる。

・・・そもそも、国道自体を未通としてしまわなかったのはなぜだろうか?
八十里越の兄弟分である「六十里越(小出〜只見。現在の国道252号の一部)」にも似たような歴史があるのだが、六十里越の車道開通にはかの田中角栄元総理が大きく関わっている。
江戸・明治の道が、たとえ規格はずれでも国道に指定されたのには、なにやらいろいろと想像ができる。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 20 明治時代の道は、荷車も通れるように、九十九を折ってでも勾配を抑えていた。
しかし、完全に登山道としての機能しかない現在では、その九十九を串刺しにするように道がつけられている箇所が多々ある。
写真の掘割も歴史のあるものではなさそうで、もともとは勾配を抑えるために小山を迂回していたものが、いつの間にかその小山を真っ二つに切ってショートカットするようになったものだ。
当時の道は今でもはっきりと確認できる。

江戸時代の八十里越といえば、むしろ今の登山道に近い、目的地まで一直線の道だったはずで、そういった意味でこれは「道の先祖がえり」とでもいえそうだ。

1-2 明治よりもひどい平成の道

国道289号 点線国道八十里越 [中編] 21 福島県境である木ノ根峠までは、林道からほんの1kmほど。
その間ずっと登りというわけではなく、一瞬登ったかと思うと九十九(を串刺しにした道)で一気に下る。
地図の上では、この先の道は急斜面の足元を行くようだ。
写真の先が明るいように、南に面したその斜面は日当たりもよさそうで・・・
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 22 おふぅ

なんだなんだ、さっきまでの気持ちのいい古道はどこへ消えた?
てか道なのか?いや、「国道291号」なのか?

この周辺はひどくぬかるんでおり、当然そういったところが大好きな植物達が身の丈を越えるほどにまで生長している。
一方でさすがに登山道といったところか、足元には小径の丸太が並べられ、交通の便を図っている。
まあ、それもほとんど泥濘に埋まり、安心して踏み出した一歩が丸太ごと沈んだりもしたが・・・
自転車はもう完全に泥まみれだ。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 23 峠まではもうすぐ。あの小高い丘の向こうが峠っぽい。
もうすぐったってあと30分はかかるだろうけど・・・
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 24 上の写真のように、峠に向かって左側は切り立った斜面が続いている。
右側は比較的穏やかな平地で、道は平地と斜面の境界にへろへろと続いている。
平地は先ほどみたような泥地なのか、藪が密集して大きな木々というのが見当たらない。
わざわざこんな土砂崩れが頻発しそうな道を進んでいるのにも、理由がありそうだ。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 25 このあたりはほとんど江戸時代の街道と同じところを進んでいる。
ただし、当時の面影はほとんど土砂と藪に埋もれてしまっている、っていうか水平なところが全くない有様で、 崩れた土砂の上を越えてはまた下るという作業を繰り返す。

右側の平地とは数メートルの高低差があるようで、簡単には迂回できない以上、ひたすらに土砂崩れと藪に立ち向かうしかない。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 26 「何で俺はこんなところに自転車なんて持ってきちまったんだ・・・」

数々の障害は登山の枠を越え、アスレチックなサヴァイバルへと変わりつつある。
この写真、傾けて撮っているのではなく、この先ほとんど垂直に1.5メートルほど降りた道の先を撮影したものだ。
そこに至る足場は、ほとんど水平に延びた木々の幹のみ。
密で太い足場に不安こそないが、自転車を担いで梯子を降りるようなものであり、正直泣ける。
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 27 それでも何とか降りた、というか自転車はほとんど放り投げて降ろした。
「降ろさないほうがよかったんじゃないのか・・・?」って思ったのはきっと気のせい。

でもそれが帰りには現実になった。
頭上の木と斜面が自転車に引っかかり、担ぐことができない上、ふらついて木の幹から足を踏み外せば軽傷ではすまない高さ。
この1.5メートルを登るのに、たっぷり5分はかかったと思う。

1-3 お別れ

国道289号 点線国道八十里越 [中編] 28 「降ろさないほうがよかった・・・」
せっかくあの難所を自転車で抜けられたというのに、その先に待っていたのは山のご褒美どころか致命的な崩落。
かすかに見えるこの先の踏み分け道までの路盤はきれいさっぱりなくなっていた。
どうすんだよ・・・
国道289号 点線国道八十里越 [中編] 29 崩落は比較的新しいものに見えるが、山側に迂回する道はすでに存在していた。
写真では左奥に延びていく踏み分け道がそれであるが、迂回路はあまりにも急で、両手をつかないと登れない。
荷車も通ったという古道はあらゆるところで先祖返りを起こし、進むためには手段を選ばないような、本来の道の目的らしい道へと変わっていたのだ。
いまではもはや、脇に自転車を従えて進むことすらままならなくなってしまった。
アスレチックな足場を苦労して越えた努力は徒労に終わった。
その難所から10メートルも進まないうちに、結局は自転車を置き去りにしていかねば進めなくなってしまったのである。

だがしかし、「自転車を捨てる」と決意したサイクリストは、往々にして強いぞ。
県境の木ノ根峠まではもう少しだ。
[ 07' 7/7 訪問 ] [ 07' 10/8 作成 ]
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