国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 3

概要

国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠の地図
古来より恐れられ、車路が開削されてもなお難所に違いなかった礼文華峠も、旧道落ちしてから数十年を経た今に踏破。
ただ、それは予想外に整備された足元に救われたからこそ成し得ただけであり、峠までの距離を考えると、完璧に廃道状態であれば、 この探索は不首尾に終わっていたことだろう。

3-1 歴史は足元にある

時刻は午前11時半。
峠直前のたった800メートルの雪漕ぎで極端に消耗した私の体力は、すでに限界に近いものがある。
そもそも、朝5時から60km近くも自転車で走り続け、うねる山道を登り、さらには雪中行軍なのだから、どうにかしないわけがないのだ。
広々とした峠で、サイドバッグに満載した食料で早めの昼食といきたいところだが、周辺はいつヒグマが出てくるかわからない、 つーかそこの笹薮からこっちを見てるんじゃないかと本気で心配できるような山の中。
のんびりしている余裕はない。

ポケットのチョコレートを齧り、いそいそと峠を下る。
んめえ。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 29 峠から先もしっかり草が刈られていた(倒木はあるが)。
バイクの轍も引き返してきたような形跡はなく、このまま現道まで下っていけそうだ。

また、峠を境にして再び南斜面に出たことで、残雪も消えた。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 30 峠の東側は迷路のようなカーブの連続だったが、西側は趣が異なり、比較的等高線に沿ってゆっくりと高度を下げていく。
地形に沿った穏やかな道・・・といいたいところだが、実際には大雨などで路盤崩落などがあるとすれば、こんな地形に多い。
一雨で流れ去ったというかつての礼文華山道を実感できるような道である。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 31 ただ、そんな昔話もどこ吹く風、旧道落ちして以来修繕工事など行われた形跡もない礼文華山道だが、路盤にまったく異常はない。
クリヤ隧道旧道もそうであったが、上から来るのはともかくとして、足元だけは流されまいとしっかり整備したのかもしれない。
おそらく路肩には石垣などもあるのだろうが、ここからではよく見えない。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 32 線形は峠の東側と比べるのもおこがましいほどの穏やかな道。
ひたすら等高線に沿って下るのみで、自転車に乗っていても酔いそうだったグネグネのヘアピンカーブはひとつもない。
しかしながら、道の荒廃度はこちらのほうが進んでいる。
足元だけはしっかりしているが、上から崩落してきた落石が路盤に広がっていたりする。
藪はないので進む分には問題ないとはいえ、道が消えるとしたら峠のこちら側だろう。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 33 上からの崩落に対し、足元の堅牢さは驚きだ。
やはり路肩に強固な崩落対策を施したと見えるが、よほど崖に近づかない限り上から路肩は見えないし、崖近くは藪がはびこっているため、足元がよく見えない。
そこで自分の足元ではなく、振り返って路肩を眺めてみると・・・

「なんだ、あの一直線に伸びる灰色の物体は・・・?」
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 34
やっぱ石垣だっ!!
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 35 山腹にそって大きくカーブを描いたその先に、やはり路肩の石垣は存在した。
以前クリヤ隧道旧道の路肩で見たのとほぼ同じタイプであり、コンクリート(モルタルか)で固めてある。
おそらくクリヤ隧道旧道と同じく、昭和初期のものと見られる。

石垣は冬枯れした木々の向こうに一部を望むだけであり、葉が生い茂るような季節には決して見えない。
期間限定の遺構だ。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 36 隠れるようにこっそり佇む石垣とは対照的な現道が眼下に見えた。
あの長大橋はつい数年前に完成したばかりで、礼文華山道を葬った当時の国道は向かって右側の斜面を進んでいた。
すなわち、今私が立っている箇所は旧旧道ということになる。

また、このあたりから現道の工事のためか、現道から旧旧道にいたるまで登山用のマーキングが見られた。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 37 現道に近づいている割には、道の様相はどんどん怪しくなっていく。
足元はぬかるみ、随所に存在する倒木が道を阻む。
緩やかに下っているのは確かなのだが、泥濘が邪魔をするために下りの実感はまったくない。

藪はないし倒木もそれなりに通れるようにはなっているので進めることは進めるのだが、
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 38 応急処置。
倒れた木の、枝数本を"枝打ち"しただけであり、バイクの兄貴もさぞ難儀したことだろう。

峠まではたとえ自動車でも(残雪さえなければ)通行可能な道であったが、峠のこちら側は泥濘、倒木、落石により、四輪者お断りの道だ。
というか、この礼文華山道は今いったいどのような用途で使われているのか?
このあたりは現道と関連するところがあるだろうが、そのほか、特に峠の東側は造林された箇所もそう多くなく、林道という感じもしない。

3-2 日本一の秘境駅、小幌。

山中に、列車の汽笛が響いた。

音が聞こえたのは海のほうから。
何事かとそちらを見てみる。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 39 「なんだあれはっ!!!!!!」

トンネル?
いやあれは、まさか・・・・っ!!!!
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 40
JR室蘭本線、小幌駅イイイィィィィッ!!!
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 41 説明しようッ!
JR小幌駅はもともと信号所であったものが仮乗降場を経て駅に昇格したものだが、驚くべきはその立地だ。
ご覧のとおり、北・東・西の三方を険しい山に囲まれ、南は海に面しており、なんと駅に通じる道がない。
車道どころか徒歩であってもそこにたどり着くことはできず、駅に行くには鉄道か船以外にありえない。
歩いていけない駅など、日本に無二。
ゆえに、小幌駅は日本一秘境度の高い秘境駅として認知されるに至ったのである。


鉄っちゃん垂涎の秘境駅、実は私もいつか行こうと思っていたのだが、こんな形であいまみえるとは!!!
国道旧道から日本一の秘境駅を見下ろすこんなロケーション、いったい誰が知っていようか!!!


ちなみに、この日の帰りに輪行した汽車が小幌駅に止まる汽車(一部の普通列車は通過する)だったので、ちょっとだけ行ってきました。
  • 車内から写した駅名表
  • 海側。建物は保線小屋だろう。
  • 運転手に頼み込んで一瞬おろしてもらい、室蘭側を一枚。左のトンネルは室蘭方面、右の封鎖されたトンネルは中線で、長万部方面のトンネルはこの右側にある。中線は内部で室蘭方面のトンネルに合流しているらしい。
  • 長万部側を一枚。明かり部分が狭い!二両編成のこの汽車でギリギリである。ホームは一両分しかない。
この駅で一人の乗客が乗ってきた。
それまでは二両編成の列車の車内に、乗客は私しかいなかった・・・

3-3 物の因果

国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 42 小幌駅を過ぎると、明らかに近代的な構造が沿道に見え始める。
路肩には土嚢が積まれ、法面は金網で防護されたこのあたりは、国道の落石・なだれ対策のために使われている。
しかしながら、現在の国道は先ほどお見せしたように山の斜面を離れ、大きな橋でショートカットしており、ここの落石対策ももはや無用の長物に過ぎない。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 43 さらにゆっくりと高度を下げ、現道(正確に言うと旧道)と同一の高度になったところでゲートだ。
砂利が敷かれたその先はもちろん現道ではなく、現役の林道である。

なお、現道と高度は等しくなるが、まだ標高240メートルほどのところにいる。
国道は次の峠の手前までにもう100メートルほど高度を下げるが、それでも登り口(標高50メートル)とは大きな差がある。
礼文華峠は典型的な片勾配の峠なのだ。
さらに、この場所から内浦湾(太平洋)までは最短で400メートルもないのだが、立ちふさがる山塊のために、ここに降った雨は遥々日本海まで旅をする。
とにかく、複雑な地形なのである。


道はこのまま直進するのと、左に直角に曲がっていくのに分かれる。
で、かつての国道はどっちかというと・・・
ごめんなさい、調べてません・・・
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 44 左に曲がると、国道に出る。
ただし、ここは最近になって旧道落ちした箇所であり、現道はもう少し先になる。

礼文華峠西側の旧国道?
ただ、線形ならびに現道の道路規格から見て、礼文華峠が国道時代であった当時の国道は先ほどの分岐を直進していたような気がする。
実際、あの道の延長線上には笹薮に埋もれた廃道があり、自転車を突っ込んで探索もしてきた。
しかしながら、そこが旧国道である確証も物証も持ち合わせていないため、レポートは見送ることにしよう。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 45 今いる場所が、北海道屈指の険路、礼文華峠を葬った国道であったことは間違いない。
そんな歴史的な道も、かつて自分が峠の道を葬ったように、最近できた新道によって葬られた。
現道からここまでは林道のアクセスのために舗装されたままだが、ここから先は舗装をはがされ、土砂を盛られた上に植林されている。
放棄後時間は経っていないにもかかわらず、道としての体裁は峠の旧旧道よりも余程薄い。
・・・これも因果か。
国道37号 礼文華トンネル旧道 礼文華峠 46 旧国道に合流してからほんの数十メートル先で現道に合流する。

礼文華峠はここで終点を迎えるが、礼文華山道全体で見た場合、まだ終わりではない。
というのも、ここから直線距離にして3.6kmほど先から、再び峠を越えるべく、道は登っていくからだ。
その峠───「静狩峠」と呼ばれるその峠を越えてようやく、礼文華山道は終点。
当然、私の旅も、ここでは終わるまい・・・
目が回りそうなヘアピンと複合カーブが連続する峠の旧道。
かつては徒歩も見限られ、あるいは旧道落ちしても探索者達を恐怖に陥れたはずのその道は、林間に延びる穏やかな歴史の道へと変わっていた。
これが一時的なものなのかどうかは知らない。
いつかまた牙をむく廃道と成り果てるのか、それともこのまま、日本随一の秘境駅を望む道として生きていくのか。
読者諸兄は、何れを望むか?
[ 07' 5/1 訪問 ] [ 07' 5/27 作成 ]
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